排気ブレーキの仕組み・使い方・修理方法【トラック補助ブレーキ解説】
公開 : 2017/05/24更新 : 2018/09/18
みなさん、こんにちは! トラック王国の展示場スタッフ、全国 展子(ぜんこく てんこ)と申します!
排気ブレーキの仕組みや構造、ブレーキが効かない時の修理方法など。今回は、ディーゼル車両に乗るトラック・バスドライバーさん必見!自動車ジャーナリストと整備士からのお話をもとに、排気ブレーキだけでなくジェイクブレーキやリターダーなど、関連の補助ブレーキの利用法まで解説します!
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目次
■取材協力:高山則政
RJC自動車研究者ジャーナリスト会員。
自動車専門誌 『オートメカニック(内外出版社)』などのメンテナンス記者兼サーキットレーサー(マツダロードスターパーティーレース2014シリーズチャンピオン)。
■撮影監修:髙橋(通称:ゴル)
『トラック王国 神奈川展示場』整備士。
3級自動車整備士(ガソリンエンジン)・3級自動車整備士(シャシ)・2級建設機械整備士等の資格を保有。トラック王国において、車両塗装や品質点検等を行う。
■編集:トラック王国ジャーナル編集長 前田絵理
伝説のギャル誌『egg』やカルチャー誌『別冊BUBKA』の編集者を経て、『トラック王国』へ入社。『トラック王国ジャーナル』立ち上げに奔走した結果、2017年 編集長に就任。
排気ブレーキとは?[効果・仕組み・装着理由]
排気ブレーキ(別名:エキゾーストブレーキ)とは、フットブレーキ以外で減速できる補助ブレーキのことです。
アクセルやクラッチを踏んで効かせるときは、閉じ込められていた排気が外に出るので、瞬間的にプシュッという音が出ます。
今回は撮影用として、特別にトラックの荷台から動画を撮影してみました。 しかし、この排気ブレーキ。「効かない!」とか、「正しい使い方が分からない…」というドライバーさんの声をよく聞きます。
そこで、今回は順を追って、排気ブレーキ(補助ブレーキ)のお話をしていきます。
排気ブレーキの機能・効果
排気ブレーキは、アクセルペダルを離したときに働くエンジンブレーキの減速エネルギーを強化する役割を担っています。
運転席の排気ブレーキスイッチをONにすると、アクセルを離した時にバルブが閉じて排気の流れが止まります。そういった仕組みによる効果です。
排気ブレーキがある場所・構造
では、そんな排気ブレーキはトラックのどこに位置しており、どんな構造になっているのでしょうか? 今回は、現物をきちんと見学するため、実際のトラックを開けてみました。
案内&監修は、『トラック王国』神奈川展示場の自動車整備士・髙橋氏。
写真左・トラック王国@神奈川の整備士、髙橋氏。
写真右・自動車ジャーナリスト、高山氏
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ハイスペックなお2人が並ぶと、迫力ありますね!
いざ、ご開帳!
トラックのキャブを上げると、エンジンがドーンと見えました!!
今回、開けてみたのは2台(ともに4トントラック)。
排気ブレーキというくらいですから排気側にありますが、1台は排気ブレーキのバルブがターボの排気タービンにつながる配管の途中に付いていました。
一方で、もう1台はエンジン側というより地面に近い排気管の途中にあったので、細かくは車両によるといった感じですね。
【関連記事】4tトラック全ガイド!車種・車両寸法・荷台寸法・価格・中型4トン車
排気ブレーキの仕組み
仕組みは、わりとカンタン。
排気ブレーキは、走行中に足がアクセルから離れてエンジンブレーキが効くときに作動します。
そのとき、フラップやバタフライと呼ばれるバルブを閉じることで、エンジンから排気を出しにくくして作動させているのです。
ただし、完全に閉じるのではなく、フラップの小穴や別の圧力調整弁から少しずつ逃して、一定の圧力以上にならないよう造られています。
そうしないと、排気の圧力が高くなり過ぎてエンジンの排気バルブが押し開き、逆流してしまうのですよ。
排気ブレーキの作動原理
エンジンは吸入・圧縮・膨張・排気という4つの行程で動いていますが、吸入と圧縮ではシリンダー内のピストンが下がり、膨張と排気では上昇しています。
しかし、排気ブレーキが働くと、通常ならスムーズに押し出される排気が出にくくなり、ピストンも上昇しづらくなります。
この抵抗する力こそが、排気ブレーキの作動原理。
エンジンブレーキを補助し、減速力を強化させているメカニズムなのです。
トラック・バスに装着されている理由
トラックやバスは乗用車と違い、エンジンの大きさに対して車重の割合が大きいです。
エンジンブレーキだけでは減速力が足りないため、フットブレーキへの負担は大きくかかります。
特に、荷物を積んだトラックは空荷の倍近い車重になるので、その負担は計り知れないほどになるでしょう。
フットブレーキばかりに頼ると、以下の2つのリスクが発生するようになります。
■フットブレーキへの負荷で発生するリスク
- 1:フェード現象やペーパーロック現象が発生する
- 下り坂が続くような時にフットブレーキを使い過ぎると、熱が上がって減速効果が低下し、事故と隣り合わせの危険な状態になってしまいます!
- 2:維持費、メンテナンス費用が高額になる
- フットブレーキは、使えば使うほどライニングやドラムといった部品が減ります。そのため多用すると、すぐ部品を交換しなくてはいけなくなり、高額な維持費が必要になります。
…以上のようなリスクを減らすために、トラック・バスには排気ブレーキなどの補助ブレーキが付いているのです。
排気ブレーキが効かないときは?[故障原因・修理法・費用]
今どきの高年式トラックは、複雑な構造。
排気ブレーキが不調でも、個人では原因が分かりにくく修理方法も思いつかないでしょう。
そこで、国内の整備工場にも聞いて、故障原因や修理方法、費用をまとめてみました!
排気ブレーキの故障原因は?
関連部品の異常など、細かな故障要素は様々あります。
ただ、一番よくある原因といえば、排ガスの熱によるススや汚れが、連携している排ガス浄化装置(DPF)にたまることでしょう。
故障に気づくポイント
整備工場に、ドライバーさんたちが修理に持ち込むキッカケを聞いてみたところ、下記のお答えを頂戴しました。
- ■4トン〜10トントラックの場合
- 単純に、排気ブレーキが効かなくなり、故障に気づく
- ■2トントラックの場合
- メーターパネルのDPF表示灯やエンジンチェックランプの点灯により、故障に気づく
4トントラック以上の中型・大型だと、排気ブレーキの使用頻度が高いため、単純に動作不良で気づくのでしょう。
【関連記事】10トントラック!燃費やレンタル料金、運転のコツ!大型トラック活用術
一方、2トントラックだと、近距離での配送が多いためか、排気ブレーキに頼るシーンが少ないそうで、「エンジンチェックランプ点灯で初めて気がつくケースが大半」とのこと。
ちなみに、次のような流れをたどって点灯します。
- ■エンジンチェックランプ点灯までの流れ
- ①ススが増えると、「DPFの再生」という機能が働く
- ②「DPFの再生」ではススを高温で燃やすために、排気ブレーキのバルブが閉じて排ガスの温度が上昇する
- ③異常が検知されると、DPF表示灯の点滅や点灯が増えて、最後にはエンジンチェックランプも点灯する!
排気ブレーキの修理方法・費用
お次は、皆さん気になる排気ブレーキ修理の方法と費用について解説します!
修理方法
故障した排気ブレーキの修理方法は、基本的には部品丸ごとの交換になります。
なぜなら、溜まったススで閉じなくなったバルブは、掃除して油を差してもすぐに再発するからです。
手間や安全面から考えて、交換がベストな修理方法というワケなのです。
修理費用
2トントラックを例に、修理費用の目安を整備工場に聞いたら、下記の回答をいただきました。
「バタフライバルブとそれを動かすアクチュエーター(エアシリンダー)がセットで、3万円。
そこに工賃が足されて、修理費用は合計5~6万円くらいになります」とのこと。
でも、「4トントラック以上になると、関連部品が頑丈だから、それほど頻繁には故障しない」だそうです。
もし、不調だなと思ったら、5〜6万円出しても修理した方が安全ですね。
それ以外の方は、安心して積極的に使ってOKです。
排気ブレーキの使い方は?
さて! ドライバーとして一番GOODなのは、故障させないように排気ブレーキを正しく使うことです。
適切に効かせれば、フットブレーキの消耗を軽減でき、安全で疲労の少ない快適走行が叶いますからね。
排気ブレーキの正しい使い方
排気ブレーキは、トラックに積荷があってフットブレーキを活用するような下り坂や高速道路で使うのがオススメです。
(もちろん、普通に停まるときに使っても、効果的に減速できますが)
運転席のスイッチをONにしておき、ギヤがつながった状態でクラッチやアクセルを完全に戻すようにしてください。
一般的なマニュアル車では、踏むとスイッチがOFFになって解除されます。
慣れると、左足で排気ブレーキのONとOFFをコントロールできるようになりますよ!
※でも、クラッチにずっと足を踏み込んでいるとクラッチの寿命を削ってしまうので、避けてくださいね。
シフトダウンとの合わせ技も効果的!
減速が足りないときは、エンジン回転数がレッドゾーンにならない範囲で低いギヤに落としたり、フットブレーキも合わせて使うと良いでしょう。
ジェイクブレーキやリターダー付き(くわしくは、下記の『排気ブレーキ以外の補助ブレーキって?』で解説!)で、スイッチに段数があるタイプは積荷や勾配に合わせてスピードが上がり過ぎないように調整すると、安全に走れます。
『三菱ふそうトラック・バス株式会社』さまより、同社の中型・大型トラックの補助ブレーキスイッチの段階&作動内容例をいただきましたので、それを元にした表をご覧ください。
■中型トラックの補助ブレーキ作動例
■大型トラックの補助ブレーキ作動例
■リターダー付き車両の補助ブレーキ作動例
リターダー付き車両なら後続車に注意して使うと◎
リターダーの付いているトラック・バスの場合、作動中は減速力が強くブレーキランプが点灯します。
後続車の状況などを確認して、追突されないように注意して使いましょう。
(リターダーの詳細は、レッスン4をチェック!)
排気ブレーキのダメな使い方
排気ブレーキはリヤタイヤに作用するので、空荷の時は使わないようにしましょう。
空荷だとリヤタイヤにかかる重さが不十分なので、排気ブレーキをかけるとスリップしやすくなります。
最悪はスピンにつながるので、雨の日は要注意!
ABS付きでは、ABSが働くと排気ブレーキが解除されるタイプもあります。
だだし、単独で使ってリヤタイヤがロックしかけたときは、スイッチをOFFにするかクラッチやアクセルを踏んでリヤタイヤの回転を取り戻すようにしましょう!
※とっさの操作となるので、判断力が勝負です!!
ムダな使用は燃費が悪化するからNG
空荷なのに排気ブレーキを常にONにするのはオススメできません。
燃費が悪くなってしまいます。
なぜかというと、エンジンブレーキが余分にかかりスピードが落ちるので、元のスピードに上げるための加速を繰り返すからです。
そのため、空いている平地や登坂など、アクセルだけで速度を十分コントロールできる状況ではスイッチを切っておきましょう!
ジェイクブレーキ付き車両はエンジンを暖機してから
ちなみに排気ブレーキと同様の役割をもつジェイクブレーキは、シリンダーヘッドにある油圧回路を使うため、エンジンが冷えている時は使用しないようにしてください。
(ジェイクブレーキの詳細は、『排気ブレーキ以外の補助ブレーキって?』をチェック!)
これはエンジンが冷えているとオイルが粘り、ムリに使うと故障の原因となるためです。
補助ブレーキにも色々あり、様々なパーツで安全な減速を実現しているのですよ。
排気ブレーキ以外の補助ブレーキって?
中型・大型のトラックでは、排気ブレーキでエンジンブレーキの減速力を補助しても、まだ足りないことがあります。
そういう場合は、排気ブレーキのほかにもジェイクブレーキやリターダーといった、補助ブレーキが追加されることがあります。
順にご紹介しましょう。
ジェイクブレーキ(原理・仕組み)
中型や大型車では、排気ブレーキでもエンジンブレーキ力が足りないので、違う種類の補助ブレーキが追加されることがあります。
代表的なのはアメリカのジェイコブス社のジェイクブレーキ(JakeBrake)。コンスタントスロットル式排気ブレーキ(日本語訳:圧縮開放式エンジンブレーキ)です。
メーカーごとに呼び方が異なり、『パワータード(三菱ふそう) 』、『エンジンリターダー(いすゞ・日野) 』という名称もありますね。
ジェイクブレーキの原理
ジェイクブレーキの原理は、エンジンの圧縮行程の終わりでシリンダー内の圧縮圧力を抜くことです。
シリンダーに吸い込んだ空気を閉じ込めてピストンの上昇でギューッと押し縮めたとき、次の圧縮行程でピストンが押し下げられてエンジンを回そうという力になるので、普通はプラマイゼロに近くなります。
ところが、ジェイクブレーキだと圧縮した空気をピストンが上がりきるところで解放するので、圧縮した抵抗だけをエンジンブレーキに使うことができるのです!
ジェイクブレーキの仕組み
ジェイクブレーキは、シリンダーヘッドに油圧の回路を追加して、排気バルブを圧縮行程の終わりで瞬時に開くようにしています。
(※排気バルブとは別のバルブを付ける場合もあります)
このメカは、シリンダー別に作動させることもできます。
例えば6気筒エンジンなら、2、4、6気筒に使い分ければブレーキの強さを調整できるのですよ。
リターダー(原理・仕組み)
排気ブレーキやジェイクブレーキはエンジンブレーキを強くする補助ブレーキですが、エンジンとは別の補助ブレーキ「リターダー」も大事なパーツの1つです。
リターダーは、過去に小型トラックや一部の中型トラックへの採用もありましたが、重量やコストがかさむので、基本的には大型車への搭載がメインです。
装着位置は、トランスミッションの後ろやエンジンとトランミッションの間。
エンジンブレーキと同じで、駆動輪にブレーキがかかります。
リターダーの原理は2種類
作動の原理には、流体式と電磁式があります。
流体式
流体式はオイルを循環させるローターやステーターというパーツで構成されていて、ローターから送り出したオイルがステーターにぶつかって減速されるときの抵抗を利用しています。
※この時、オイルの温度が上がるので、冷却の機構もついています。
電磁式
電磁式は電磁石や発電機のような原理を使うもので、プロペラシャフトと一緒に回るローターに渦電流というものを発生させ、磁力による反発力を起こさせます。
これが駆動輪にブレーキ力となって働くのです。
ちなみに、電磁式にはバッテリーなどから電気を流して調整するタイプのほかに、永久磁石やコイルの組み合わせの永久磁石式があります。
永久磁石式は軽くてメンテナンスも少なく、最近ではブレーキ力も強くなってきています。
これらも、ローターのフィンから放熱するようになっているのですよ。
トラック・バスの補助ブレーキ装着例
さて。実際、補助ブレーキの装着状況はいかほどなのでしょうか?
気になったので、本記事の図版出展に協力してくださった『三菱ふそう』さんのトラック・バスをベースに、調査してみました。
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トラック
まずは、各トラックにどんな補助ブレーキが装着しているのでしょうか? 見てみましょう。
小型/キャンター
装着状況:排気ブレーキ
(最新モデルではないタイプで、リターダー付き車両もあり)
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中型/ファイター
装着状況:排気ブレーキ/パワータード(一部標準)/リターダー(OPT)
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大型/スーパーグレートV
装着状況:ジェイクブレーキ/シフトダウンブレーキ/リターダー(OPT)
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バス
お次は、バスの補助ブレーキ装着例。ご参考までにチェックしてくださいね。
小型/ローザ
装着状況:排気ブレーキ
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中型/エアロミディ
装着状況:排気ブレーキ+パワータード
■大型/エアロスター、エアロエース(ショート)
装着状況:排気ブレーキ+パワータード
■大型/エアロクィーン、エアロエース(ハイデッカー)
装着状況:ジェイクブレーキ/リターダー(OPT)
このように、車両が大きくなるほど補助ブレーキが増えていくことが分かりますね。
使い方をマスターして、安全運転に活用しましょう!
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排気ブレーキのまとめ
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トラック姫、勉強になりましたか?
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難しい部分は、頭が沸騰しそうになったけど、3回読んだら理解できたトラ!
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補助ブレーキの知識は、ドライバーの命を守る重要科目ですよ!!
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姫も、補助ブレーキ付きの友だちが欲しいトラ〜
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うむ! 『トラック王国』に相談じゃ〜!!
- 図版協力:三菱ふそうトラック・バス株式会社
ロケ・監修:『トラック王国』神奈川展示場
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